四畳半神話大系について
僕が初めて触れた森見作品であり最も好きな小説の一つでもある作品です。
アニメ化もされているから知っている人も多いのでは。
京都大学で鬱々とした生活を送っている主人公「私」の大学生活を描いた作品で、
個性的すぎるキャラクター、独特すぎる言い回し、唐突すぎる展開と、まあ一言で言うなら「癖がスゲエ」。
ハマる人にはハマるし、無理な人には無理な作品でしょう。
僕はガッツリハマるタイプの人間でした。この本に人生狂わされたのではないかというほどに。
この作品(というか森見登美彦作品全般)で描かれる京都はファンタジーの世界で、僕はそれに憧れて京都に来たといっても過言ではありません。もちろん現実は全然違いましたが。たぬきや天狗は街を謳歌していないし小津や師匠みたいな憎めない変人たちもいないし、明石さんのような黒髪の乙女もいない。
一体どこにいるのだろうか黒髪の乙女は。
ただ、大学生になって読み返してみると、「私」の心情表現だけは妙にリアルだということに気がつきました。
この作品では4つのパラレルワールドが描かれているのですが、どの世界でも「私」は、あの時別のサークルに入っていれば...そうしたらもっと素晴らしいキャンパスライフを手にしていたのに...、と思っているのです。
これは、大学生ならば共感できるのではないでしょうか。どんなにサークル活動を楽しんでも、心のどこかでいつも、もっといいサークルがあったのでは?もっと有意義な時間の使い方があったのでは?と考えてしまうのではないでしょうか。
いや大学生に限らず誰しもが過去の選択は間違っていたのではないか、もっと素晴らしい人生があったのでないかと考えているのではないでしょうか。
無限の可能性がある、というのは一見素晴らしいことのように思えますが、裏を返せば何をしても何を選んでも満足できないという恐ろしい事実でもあります。
そんな、誰でも持ち得る悩みに対してこの作品は次のような答えを示しています。
「何を選んでも大して変わらない」と。
「私」は4つのパラレルワールドでそれぞれ別のサークルに入っているのですが、先に述べたようにどの世界でもサークル選びに公開して、鬱々とした生活を送っているし、小津には振り回されるし、明石さんとは結ばれています(羨ましい)。
結局最後には同じところに収束しているのです。
それならば現状に悩むことなど全く意味がない、ただ「運命の赤い糸」と「運命の黒い糸」に身を委ねるしかないのでしょう。
これは、悩みの尽きない大学生にとってある種の救いだと思います。
ファンタジーの世界で大学生の鬱屈したリアルな悩みを描き、それに対して一つの答えを描いている。だから僕はこの作品が大好きなのです。